株式会社ユーグレナ

「日本をバイオ燃料先進国に」
日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント
に求められる「技術力」と「信頼性」

2005年 12 月に、世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功した東京大学発のベンチャー企業、 株式会社ユーグレナ。「人と地球を健康にする」の理念の下、植物と動物の栄養素を計 59 種類も併せ持つ単細胞生物(微細藻類)のミドリムシ(学名:ユーグレナ)の特性を活かした健康食品、燃料、肥料、化粧品などを開発しています。 今回は、その多彩な事業の中から、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けたバイオ燃料製造の取り組みについて、同社バイオ燃料製造実証プラントの工場長である森山宏一郎氏にお話を伺いました。

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国産バイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントの
プロジェクト内容について、教えてください

2015年12月、弊社は横浜市や千代田化工建設株式会社(以下、千代田化工建設)など1市4社と共同で、バイオジェット燃料による有償フライトおよびバイオディーゼル燃料による公道走行の実現を目的とした「国産バイオ燃料計画」を発表しました。バイオ燃料製造実証プラントの建設工事は、燃料事業を専門とする千代田化工建設をコントラクターに選定し、2017年6月より着工し、精製から貯蔵、出荷までに必要な設備すべてがコンパクトにまとまったプラントを昨年10 月末に完成させました。

2MrMoriyama350x400本プラントにおける大まかな精製の流れは、ドラム缶で搬入された原料を、まず初めに不純物を除去する前処理工程を経て、次に水熱反応処理によりジェット燃料に適した性状へ転化します。その後、水素化反応により脱酸素処理を行い、さらに蒸留処理によりナフサ、ジェット燃料およびディーゼル燃料に分離します。
技術的には従来から存在する水熱反応処理と水素化処理を組み合わせたプロセスを実証規模として日本国内で初めて採用、導入しています。
本プラントでは現在市販されている化石燃料と同じ分子構造を持つ燃料を製造することができ、理論的には100%代替可能な燃料となります。
規模の小さい実証プラントであり、日産5バレルにて約半月毎に稼働、停止を繰り返し、都度品質検査を行います。
現時点では、本プロセスによるバイオディーゼル燃料は、100%含有率での使用が可能であり、バイオジェット燃料については、国際規格の認証取得により、最大50%の含有率の使用が可能となる予定です。

近年、次世代バイオ燃料が注目を集めていますが、
その背景には日本の抱える課題やチャレンジがあるのでしょうか

COP21において採択されたパリ協定により、日本は温室効果ガス(CO₂)の排出量を2030年までに、2013年比で26%削減する目標を掲げています。自動車業界では電気自動車や水素燃料への移行、工場などでは各種省エネの取り組みによりCO₂排出量の削減が図られていますが、航空業界における取り組みは大きく立ち遅れています。
現在、世界中の国際便の航空機から年間約7億トンのCO₂が排出されており、今後もLCC増加などにより、毎年5%のスピードで排出量増加が予測されています。国連の専門機関である国際民間航空機関 (ICAO)は、2016年の総会において、2020年以降はCO₂の排出量を増加させない「CNG2020」を採択しました。
この「CNG2020」を達成するためには、新型航空機の導入や運航方式の見直しなどに加えて、バイオ燃料の導入が必要不可欠となっています。ICAO の発表資料から試算すると、2050年の国際便の航空燃料需要の50%相当をバイオ燃料に代替する必要があることになります。
また、COP21のパリ協定に従い、国内航空機のCO₂排出量削減目標を達成するには、2030年までに約180万キロリットルのバイオジェット燃料の導入が必要となる試算ですが、現在国内においては製造されていません。

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我が国のバイオ燃料導入量は、車に利用するためのバイオエタノールをブラジルから年間83万キロリットル輸入しているのみであり、2022年も同量維持の方針しか打ち出していません。世界を見れば、EUではバイオ燃料導入目標量を1,900万キロリットルから2020年には3,000万キロリットルへ、米国においては6,300 万キロリットルから2022 年には 1 億 3,600 万キロリットルへと倍増する計画であり、欧米諸国からは大きく引き離されており、日本はバイオ燃料後進国であると言わざるをえません。

日本の次世代バイオ燃料市場が盛り上がらない理由は、いくつかあると思いますが、日本国内では欧米諸国と比べて人々の環境負荷低減への意識がそれほど強いものではなく、消費者サイドからのニーズがなく、またバイオ燃料の製造に取り組むのが純粋な環境事業を目的とした自治体などが主体であり、化石燃料の精製、販売を行っている石油元売りとしては、そもそも収益事業として成り立ち難いということなどが考えられます。バイオ燃料を普及させるには、導入促進のための税制優遇措置など、官民一体となった取り組みが必要と考えます。今回我々の実証プラントが完成し、今まで産官学から多くの方々がプラント視察に訪れてきており、CO₂削減や次世代バイオ燃料への取り組みについて、皆さんから激励、支援の言葉を掛けていただいており、とても嬉しく思うとともに、使命感のようなものを強く感じています。

バイオ燃料における国内外の技術開発動向についてお聞かせください

日本では、2020年における次世代航空機燃料の供給を目指したサプライ・チェーン確立に向けたロードマップ策定を開始する取り組みとして、航空、エネルギー、プラント、商社などの幅広い分野の産官学46組織が参加し、「次世代航空機燃料イニシアティブ」が2014年5月に設立され、2015 年には東京オリンピックの年に国産バイオジェット燃料を用いたフライトを実現するための「道筋検討委員会」が発足しており、弊社も参加しています。 また、この2月には、微細藻類を活用した事業開発で、株式会社デンソーと包括提携を交わしており、デンソーの培養施設で作られた藻を、本プラントの原料として使用する予定です。本プラントで製造した国産バイオジェット燃料を航空機に使用するためには、まずは米国材料試験協会(ASTM)認証が必要であり取得見込みです。

ちなみに、海外では主に廃食油を原料として、既にASTM認証取得を受けた水素化処理技術により、化石燃料との混合比率最大50%で製造されたバイオジェット燃料を使用し、15 万回以上もの有償フライト実績があります。

実証プラントにおける、スウェージロック製品採用の背景について教えてください

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配管部材の選定は、コントラクターである千代田化工建設に一任していますが、スウェージロックとの協業による「モジュール」や「チュービング」は、運転操作性や設備管理面において利点があると感じています。
主に水素化処理工程や蒸留工程において、スウェージロック製品を多く使用していますが、今までの試運転で漏れなどもなく満足しています。
「モジュール化」は、研究施設などでよく採用されているイメージがありますが、製造量の少ない実証規模の本プラントに適した工法であると思います。

同実証プラントの EPC コントラクターである千代田化工建設の小竹勝実氏と藤田英明氏に、スウェージロック製品採用の背景について伺いました。

[技術力」と「信頼性」に尽きます。他社製のチュービングも多数ありますが、
気密性能ではピカイチと定評のあるスウェージロックを選んでいます。

我々が配管部材の選定でまず候補に挙げるのはスウェージロック製品です。コスト重視で水など危険性のない流体の場合、保証条件によっては、他社製品を使うことに異論はありません。しかしながら、各プロジェクトのベンダー選定は、価格だけでなく将来的な利便性、引き渡し後の問題やリスクなどをてんびんにかけて総合的な決定をしていますので、製品に対する今までの実績や信頼性が非常に大切な要素となっています。つまり、他社と全く同じ条件でスウェージロック製品が価格面で多少高かったとしても、総合的に見て採用する場合もあります。本実証プラントは、通常であればパイプの配管工法で進める設備ですが、製造量やプラント全体のコンパクト化と言ったお客さまの要望などを熟慮し、「チュービング化」を採用しました。また、プラント全体の工程管理も考え、チュービングを得意とするスウェージロックが事前組み立てを行った「モジュール化」を選択しました。結果として、お客さまも満足されるプラント全体のコンパクト化はもちろん、施工性や操作性にも優れたレイアウトが実現できたと思っています。

今後のバイオ燃料事業のビジョンについて教えてください

現在世界で商業化されているバイオ燃料の原料のほとんどは廃食油であり、いずれ原料の取り合いに伴い価格が高騰していくことが予測されることから、バイオ燃料の原料となるユーグレナを大量培養することで、長期的かつ安定した原料を確保することが期待できます。この実証プラントの年間製造量は 125 キロリットルですが、将来的には商業プラントを建設し、2025 年までには製造コストを化石燃料レベルに下げ、年産 25 万キロリットルを目指しています。私たちの取り組みによって、日本全体がバイオ燃料先進国へと変わっていく追い風を起こしたいと思っています。