国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)

原子力技術から誕生した高感度のガス測定装置

開発を支えるスウェージロックの品質とサポート体制

品質管理があらゆる分野で重要視される現代において、とくに食の安全を担保するために、農作物や畜産物の成分表示あるいは鮮度情報に対して消費者の意識が高まってきています。付加価値を加える意味でも、食品の詳細情報の開示が求められており、様々な測定方法が存在します。しかし従来の測定方法は、検査対象に電気を通したり、対象の一部分を分解して測定するなど、対象を破壊しなければならないものが主流でした。そこで、対象をまったく傷付けずに測定が可能な「非破壊試験」が注目されています。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA:茨城県東海村 理事長 鈴木篤之)では、主に原子力分野の研究開発を行っていますが、研究の過程で生まれた特許技術は、現在出願中のものも含めて約 2000 件にも上ります。JAEA の産学連携推進部では、これらの技術を社会に役立てるため、新製品の開発を民間企業との共同研究で行っています。

その成果の一つとして、日本金属化学株式会社と共同開発した、「固体中含有ガス量測定装置(グラビマス®)」と「呼気ガス測定装置(ブレスマス®)」があります。核融合研究の成果である応用真空工学技術の特許を利用したこの装置は、物体から排出されるガス成分を非破壊方式で測定・分析します。人間の息や野菜の表面から出ているガスを採取して検査するため、対象を傷付けずに測定が可能で、また、高い感度にも関わらず約 10 秒で測定が完了するという実用性も備えています。

ブレスマスの場合、人間の息をほんの 0.2 ml 採取し注入するだけで、数日前の詳細な食事内容や過去の喫煙習慣といったことが識別可能なデータとして瞬時に分析されます。一般的なドーピング検査やアルコール検知器などでも同じ原 理が使われていますが、技術副主幹の平塚一氏によると、ブレスマスは、取得データ値のバラツキ(再現性)が常時 0.1%以下に維持されています。これは、ブレスマスと同じような真空システム構成のガス分析装置に比較して約 10 倍も再現性に優れています。この高い再現性を可能にしているのは、JAEA が特許保有している特殊真空排気システムと、放出ガス量を極小に制御しているスウェージロックの真空部品類(ベローズ・バルブ等)を使用したことによるとのことです。

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呼気ガス測定装置(ブレスマス)
(提供:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

高度な分析が可能なこれらの装置ですが、利用されている技術も非常に高度なものです。例えばブレスマスでは、特殊なシステムを通じて月の表面と同じぐらいの圧力である超高真空状態を作り出し測定しています。この真空状態を保つために装置の一部が約 200℃の高温に熱せられるため、使用されている各部品にも高い耐久性と品質が求められます。産学連携コーディネータの阿部哲也氏は、「真空状態を作り出す際には漏れはもちろん厳禁ですが、高温で熱すると使用しているバルブなども熱変形によって溶着したり、また不純な材料を使用している部品から有害なガスが出たりすることもあります。その点、スウェージロック製品はガス出しをした高品質の材料で出来ているので、変形もしません」と語っています。

産学連携推進部では、製品の品質の高さと安定性に加え、スウェージロックのサポート体制も高く評価しています。前出の平塚氏によると、研究開発に関わる場合、迅速な対応も重視されるサービスの一つです。例えば、開発実験中 にブレスマスでトラブルが発生した場合、すぐに代替部品がなければ真空状態が維持されず、実験へのダメージが大きくなります。日本スウェージロック FST では、緊急のニーズにも迅速に応えられるような体制を常に取っており、その柔軟な供給体制と、そこから得られる信頼性も高い評価に繋がっています。「半導体業界でも同じことは言えると思いますが、24 時間稼働しているので、対応が遅いメーカーは採用できません」(阿部氏)。

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「漏れが厳禁で高温使用する真空技術ではスウェージロックの品質が頼り」と話す
阿部氏(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 産学連携推進部 産学連携コーディネータ)

JAEA では 20 年以上前から、その安定性ゆえにスウェージロック製品を採用していますが、ブレスマスでは 1 台につき Swagelok® ベローズ・シール・バルブなど約 20 点、グラビマスでは約 40 点のスウェージロック製品が使われ ています。

現在、グラビマスは主に自動車関連の工場などで再生材の性能判別に利用されています。一方のブレスマスは農作物の鮮度測定、酒の香り分析など、様々な分野での実用化が進んでいます。また、血液検査よりも簡単で正確な診断が可能となるため、医療現場への導入も大きく期待されています。原子力から派生した応用真空工学技術が、まったく異なる分野へと展開されているため、各分野での改良は欠かせません。スウェージロックではこのような改良に合わせ、カスタマイズしたバルブなどの製品も共に開発しています。「今後は企業と協力してのグラビマス・ブレスマスの量産も視野に入れており、様々な課題を解決するソリューションとしてさらなる利用拡大を推進していきたい」と語る部長の庄子邦明氏。グラビマス・ブレスマスの今後に期待が高まります。

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グラビマス(Gravi-Mass)とブレスマス(Breath-Mass)は日本金属化学株式会社の登録商標です。