国立研究開発法人 海洋研究開発機構

未知なる地球深部の世界「マントル」を目指して地球深部探査船
「ちきゅう」の安全性を支えるスウェージロック

文部科学省所管の国立研究開発法人である「海洋研究開発機構」(JAMSTEC)は、海洋関連の科学技術の開発や学術研究を支援する組織です。JAMSTECにインタビューさせていただくのは、昨年に引き続き2度目となります。
今回は、JAMSTECが保有する研究船のうち、今まで人類が到達できていない海底下深部にあるマントルや海底下にある巨大地震発生域の海洋掘削に挑む地球深部探査船「ちきゅう」の直近の活動と、2019年より船上で実施された配管換装プロジェクトにおけるスウェージロックとの取り組みについて、JAMSTECの五十嵐 智秋氏、株式会社マリン・ワーク・ジャパンの藤原 昭彦氏と人見 勇矢氏にお話を伺いました。

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海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の事業内容、および五十嵐様の業務内容について簡単に教えてください

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JAMSTECは、海洋科学技術の水準の向上を図ると共に、学術研究の発展に貢献することを目的に、海洋に関する科学技術の開発や学術研究を総合的に支援しています。
平易な言葉で言うと、その名称のとおり海全般に関わること、つまり地球全体を取りまく海象から気象、さらに海底下の地球内部に向けて海底地形や地質に至るまで、所有する調査船を使用し調査・研究を行っています。

私は、JAMSTECが所有する研究船舶を管理する部署で、地球深部探査船「ちきゅう」の研究区画、ラボ設備全体に関係する業務を主に担当しています。
例えば、研究航海で使うラボ用機器の準備や、設備の点検や改善といった保全業務などです。また、研究者の要望に沿って新しい装置の導入も担当します。「ちきゅう」には2007年から携わっており、14年目になります。

株式会社マリン・ワーク・ジャパンの業務内容についてお聞かせください

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藤原氏:株式会社マリン・ワーク・ジャパンは、海洋科学および地球科学に関する研究・調査支援を行っています。そのうち、私たちが所属する課では、「ちきゅう」の研究区画にある装置の保守・管理に加え、研究航海時に採取した海底掘削コア試料の処理・計測・分析を請け負っています。
例えば、「ちきゅう」の研究区画にある病院と同一仕様の
XCTスキャナーを使い、海底掘削コア試料の構造確認を行うため、CT撮影を行います。その他、海底掘削コア試料の処理に加え、非破壊計測や化学分析のデータを研究者に提供する支援も行っています。

2019年度の「ちきゅう」の主な活動やその成果について教えてください

五十嵐氏:2019年度は、前年度の国際プロジェクトで採取したサンプル分析を清水港で行ったほか、掘削機器の整備やその性能試験を駿河湾で実施しました。また、2020年1月には、「地球深部探査船「ちきゅう」を用いた表層科学掘削プログラム(Chikyu Shallow Core Program: SCORE)」の一環として、遠州灘と鬼界カルデラにて研究航海を行いました。
「表層科学掘削プログラム(Chikyu Shallow Core Program: SCORE)」とは、JAMSTECと日本地球掘削科学コンソーシアムによる協働プログラムで、短期間で実施可能な海底表層の科学掘削を行います。遠州灘では、長期の地震発生履歴を解明するための掘削航海を実施し、長期間の連続した地震記録サンプルを採取しました。
一方、鬼界カルデラでの掘削は、危険度の高い自然災害のひとつである超巨大噴火の予測を行うのが目的でした。これまでの研究結果と今回採取したサンプルにより、過去2回の超巨大噴火を確認することができました。

「ちきゅう」に携わる中で、特にやりがいを感じることは何でしょうか?

五十嵐氏:「ちきゅう」が採取するサンプルには、今まで誰も見たことがない未知のものも多くあります。研究者のために設備や装置の準備に万全を期して臨み、新たな発見があった時には、とても喜びとやりがいを感じます。
また、研究者からの評価もモチベーションになります。研究者の方にとって最適なラボ環境を提供することを常に意識し、評価いただいた点はさらに良く、評価いただけなかった点は課題としてしっかり対応し、改善に取り組みたいと考えています。

2019年から実施された換装工事で船内の配管設備を大幅に刷新されましたが、どのような課題があったのでしょうか?

五十嵐氏:元々、「ちきゅう」には9系統の集中ガス配管が2フロアにわたって設置されていましたが、必要な場所まで配管されていなかったり、配管の径が大きすぎてガスを無駄遣いしていたりなど、さまざまな課題がありました。時代の変化に伴って研究テーマが変わり、設備や装置の機能も向上し、既存配管の役割や必要性も変わってきており、以前から更新の要望がありました。

どのようなきっかけで、換装工事を実施することになったのでしょうか?

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五十嵐氏:この配管換装プロジェクトは一度、2012年に計画されましたが、諸事情により中止となりました。当時、スウェージロックの担当営業の方が、陸上とは異なる特殊な環境での私たちの課題を理解すべく、何度も船上に足を運んでくれていましたので、その時間と労力を無駄にすることとなり、申し訳なく思っていました。
「もうスウェージロックには連絡は取れない」と思っていましたが、それから約
2年後に、スウェージロックの担当営業の方から「もう1回、一緒に考えさせてください」との連絡をいただきました。あの日、とても嬉しかったことを覚えています。その後、2018年になって改めて船上を訪問いただき、スウェージロックのフィールド・エンジニアによるガス配管のリーク検査を実施しました。
検査の結果、配管の何個所かにリークが見つかったことをきっかけに、ガス配管の見直しが検討され、今回の換装工事を実施することとなりました。

今回、どの程度、配管などの設備を取り換えたのでしょうか?

五十嵐氏:ほぼすべて取り換えました。例えば、ガス配管は、9本から4本にしました。また、複数のガス・クロマトグラフが設置されている一区画だけ、ガス・ボンベ・スタンドを増設し、6本の配管にしました。
さらに、配管径も既設の約半分にサイズ・ダウンしました。今回の換装により、ガス・ボンベの保管場所が不要となり、設備スペースの確保にもつながりましたし、ガスの無駄もなくなりました。
スウェージロックとの打ち合わせを進める中で、換装工事の内容は当初の計画から若干変わりました。
スウェージロックは、現場を調査した上で、私たちの課題をしっかり理解し、いろいろと提案してくれました。本当に、「ちきゅう」に特化した配管レイアウトや製品選定、そして配管部品の組み立てを考えてくれたと思います。

スウェージロックからの提案について、印象に残っていることはありますか?

五十嵐氏:以前の配管には継手をたくさん使用していましたが、予算面もあり、必要最小限に抑えたいと要望しました。
予算の制限がある中で、スウェージロックはいろいろなアイデアを出してくれました。
その結果、費用を当初の計画の三分の一に収めることができました。規模は同じで、コストは三分の一です。これは、すごく大きかったです。

陸上とは異なる、船上という環境ならではの課題もあったのでしょうか?

五十嵐氏:「ちきゅう」のラボ設備は船内にありますが、海上でも研究を行います。
よって、配管換装を計画する上で、設備面だけではなく、作業面も考慮すべき点があります。特に今回、それを実感しました。

藤原氏:船上なので揺れがあります。例えば、陸上でもガス・ボンベの転倒防止のため、チェーンをかけて土台に固定することがありますが、船上の場合、チェーンで土台に固定してもガス・ボンベは簡単に動いてしまいます。今回、スウェージロックには、ガス・ボンベの固定方法についても相談しました。

五十嵐氏:スウェージロックは、ガス・ボンベを土台に固定する金具を提案してくれました。
幅のあるバンドのような形状の金具でした。私たちの課題を、柔軟な発想で解決してくれたのです。

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人見氏:「ちきゅう」の研究航海は、1か月や2か月間続くこともあります。その間、いつでもサンプルのガス・クロマトグラフ分析ができるよう常にスタンバイしておく必要があります。
今回の換装工事では、
2本のガス配管を設置し、圧力が低下しても自動で切り替わるシステムを導入しました。ひとつのガス配管だけでは、ガスが無くなったらガス・ボンベを交換する必要があり、ダウンタイムが発生します。

今回の換装工事では、2本のガス配管を切り替えられるようなパネルを組み立てて納めてもらいました。ガスの連続供給ができるようになり、長い研究航海中であっても、いつでもスタンバイしておくことが可能となり、研究を支援する私たちにとっても、とても助かります。

スウェージロックの製品やサービスについてどのようなところを評価していますか?

五十嵐氏:ラボ設備だけではなく、船全体の至るところにスウェージロック製品を使用していますが、品質が安定しており、信頼できるところが一番のポイントです。また、スウェージロックが主催する配管基礎セミナーを東京で受講したところ、船上作業に直結する内容だと思ったため、船上でセミナーを開催してもらいました。
ラボに関わるスタッフのみならず、実際に掘削現場で作業するクルーも対象に、船上での作業に直接関わる内容で実施され、有意義なトレーニングとなりました。

スウェージロックのフィールド・エンジニアリング(現場調査)についてはいかがですか?

五十嵐氏:スウェージロックのフィールド・エンジニアの方は現場をよく理解しているので、細かい説明をせずとも、お話できることがありがたいです。「ちきゅう」に特化して、私たちのニーズに合った提案も行ってくれます。
また、既存設備を上手く活用する方法も考えてくれています。
例えば、今回の換装工事では、配管の径が細くなることで配管サポートとの間にすき間が生まれますが、既設のサポートを活用した配管レイアウトといった、私たちにはない発想の提案をしてもらえました。

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今回の換装工事で、ランニング・コストやメンテナンスの頻度といった部分も改善があったのでしょうか?

人見氏:配管径を小さくしたことでガスの使用量が減りますので、フラッシングの手間も少なくなりますし、ガスの節約にもつながります。また、これまでバルブがねじ込み式であったため、配管メンテナンスには技術も必要でしたし、リークのリスクもありました。今回、集中配管の出口は、すべてSwagelok® チューブ継手となりましたので、私たちで取り扱う場合でもリークのリスクは低減できると思います。

五十嵐氏:ラボ設備の配管レイアウトが全体的にスッキリしました。クルーが船の設備点検で天井のパネルを開ける場合、以前はガス配管が干渉して作業ができない個所もありました。ガス配管を壁に設置する要望を受けたこともありました。そこは船内という限られたスペースで共存していかなければならない課題です。今回の配管レイアウトで、作業しやすくなると思います。

最後に、今後の課題や目標を教えてください

五十嵐氏:「ちきゅう」に残された大きな課題はひとつ。「マントルを目指す」ことです。
「ちきゅう」はマントル掘削のために作られた船ですが、そのミッションを達成できていません。宇宙のサンプルはサンプル・リターンなどで入手できますが、海底のサンプル入手は難しく未知の領域です。まだ誰も地球の内部を見たことがなく、サンプルを手にしたことがありません。
私たちだけでなく、「ちきゅう」のクルー全員も、そのミッションを達成できるようこれからも挑み続けます。