J-PARC

J-PARCをノーベル物理学賞の宝庫に

大強度陽子加速器施設 「J-PARC: Japan Proton Accelerator Research Complex」を支える
スウェージロックの流体システム・コンポーネントとサービス

J-PARC(ジェイパーク)は、まだ動き始めたばかりで、生まれたての赤ん坊のようなもの。これから大きく育てていきます」田中教授は子どもの成長を見守る親のように目を細めます。 世界最高クラスの大強度陽子ビームを生成する加速器と、そのビームを利用して最先端の研究を行う実験棟からなるこの多目的研究施設が、21世紀の科学や技術の研究と発展に大きく貢献しようとしています。

この原子核・素粒子物理学の分野からは、すでにノーベル物理学賞の受賞者が輩出されています。

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「J-PARC(ジェイパーク)は、まだ動き始めたばかりで、生まれたての赤ん坊のようなもの。これから大きく育てていきます」と話す田中教授。
(理学博士/高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 大強度陽子加速器計画推進部 大強度ハドロン部門(兼)素粒子原子核研究所 教授)

2008年には、小林誠氏(現・高エネルギー加速器研究機構(KEK)、名誉教授)がノーベル物理学賞を受賞。物質を構成する基本粒子(クオーク)が6種類あることを独自の理論で予測したもので、その理論を裏づけ、受賞を確実にしたのも加速器による実験結果でした。

小林氏のノーベル物理学賞が初の受賞となりましたが、これからもノーベル物理学賞の候補者が、J-PARCにいつもたくさんいる状況を作りたいと田中教授は願っています。加速器の運営だけでなく、もっと先の未来を見据えて、田中教授はスウェージロックからさまざまな製品やサービスの提供を求めています。

工場(ファクトリー)と呼ばれるJ-PARCの加速器は、ビームを操作する電磁石や配管のユニットで構成されており、その数は100を超えています。またこの加速器には、1万個を超えるチューブ継手やボール・バルブなど、スウェージロックの配管システムが採用されており、配管の構築にはSwagelok®円周自動溶接機チューブ・ベンダーが使用されています。

さらにスウェージロックの指定販売会社である日本スウェージロックFSTによる安全講習会が定期的に行われるなど、スウェージロックの製品とサービスがこの大強度陽子加速器を支えています。

宇宙や物質の謎に光をあてる、巨大な顕微鏡

茨城県東海村にあるJ-PARCは、日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)によって共同で運営されています。2001年から約1,500億円を投じて建設が進められてきたこのJ-PARCは、約65万平方メートルの広大な敷地に広がり、中性子やミュー粒子、K中間子、ニュートリノなどの二次粒子を使って原子や分子の構造を見る、いわば巨大な「顕微鏡」となっています。

J-PARCでは陽子(水素の原子核)を光速(秒速約30万km)の99.98%の速度にまで加速した大強度陽子ビームを生成。それを施設内に併設された各実験棟にある金属(水銀やニッケル、グラファイトなど)の原子核に衝突させることで、二次粒子を人工的かつ安定的に大量に発生させています。

こうして発生させた二次粒子を利用して、素粒子物理学や原子核物理学、物質生命科学の研究が進んでいます。「物質とは何か」「宇宙はどのように誕生したのか」など、これまで明かされてこなかった謎に光を当てることで物理学の発展に貢献するだけでなく、化学、生物学といった基礎科学研究の推進、新薬や新素材の開発、工学、情報・電子、医療など、幅広い分野での成果が期待されています。

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対象物に向けて加速器から大強度陽子ビームを採取、運搬するためのビーム・ライン。100を超える電磁石から構成されている。
大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、1万個を超えるSwagelokチューブ継手を使用。

すべてをスウェージロックにー配管部品の標準化

J-PARC完成以前、従来の大強度加速器は、世界最先端のものでも0.1 MW級でしたが、この加速器はその10倍、1 MWもの大強度で陽子ビームを生成することができ、より明瞭に原子、分子の構造と動きを確認することができるようになりました。

J-PARCにおける大強度陽子加速器の設計と、原子核・素粒子の研究を進める田中万博教授は、この施設の設計をするにあたって、配管部品の標準化を重要視したと話しています。田中教授は、これまで様々な企業の多種多様な製品を使用した加速器を数多く設計してきたのです。

「これまで携わってきた加速器には、異なるサイズや規格が使用されていたため、接続性や互換性が悪く、配管から水漏れが起こる原因があらゆる箇所に散在していました。また、多くの配管には増し締めが必要な銅製のものが使われており、その腐食、侵食性もまた、漏れを生じさせる原因となっていました」田中教授はそう述べています。「そこで装置を構成する部品を調達する際に、これまでの部品を一新して標準化を図ることにしたのです」

J-PARCの加速器は、ビームを操作する電磁石や配管のユニット数が100を超え、ユニットひとつが壊れたり、配管の一箇所からでも水漏れが生じたりすると、そのたびにすべての装置を停止させて修理しなくてはなりません。それが繰り返されれば、J-PARCで行われる研究の継続性はおろか、研究成果の確実性さえ失われてしまいます。

「漏れを防ぐ。故障した際にはその箇所を容易に発見する。部品の交換を簡単に行う。そのためにすべての銅配管をステンレスに変え、すべての配管部品を一社にまとめることで、システムの標準化を進めました」田中教授の決断は大きなものでしたが、それだけこの『標準化』がもたらす配管システムの安全性と安心性は、J-PARCにとって必要不可欠なものでした。

そして、この標準化のために採用されたのがスウェージロックなのです。

「昔から大学の研究室や実験室でも、漏れが許されない箇所はいつもスウェージロックでした」と話す田中教授。

J-PARCでの採用を検討する際にも、実際にほかの候補製品と比較しながら使用してみましたが、品質や性能の高さから、確信をもってスウェージロックの製品を採用しました。

スウェージロックの価値 ー 顧客第一、高品質、信頼性

スウェージロックのチューブ継手は、大強度陽子ビームを操作する常伝導電磁石の冷却水配管などで採用されています。サイズは6 mmから15 mmまで、その数はおよそ1万個以上、接続箇所は2万箇所以上にのぼり、そのひとつひとつが漏れのない配管システムを支えています。また配管システムのデザイン上、継手が使えない箇所には円周溶接機で溶接が施され、担当者が容易かつ確実に配管の施工を行うことができました。

加えて、継手の箇所を減らすため、チューブの曲げ加工によって配管を組む際にも、スウェージロックのベンチトップ式チューブ・ベンダーが使われました。これはJ-PARCの建設当時、15 mmのチューブの曲げ加工に適していませんでしたが、指定販売会社を通じてスウェージロックが特注品を製作、田中教授のリクエストに合ったチューブ・ベンダーを納品することができました。

「水漏れがない、というのは装置にとって当たり前のこと。しかしこれだけ大規模な装置で、当たり前のことを当たり前に実現してくれる高い品質と対応力は、スウェージロックの大きな価値だと思います」と田中教授。事実、J-PARCの稼働以来、水漏れによる運転停止は発生していません。

そして、「大量の部品交換、新規の購入が必要な時も、迅速かつタイムリーに製品を届けてくれる。これは大規模なシステムをもちながら、最低限の在庫で管理するJ-PARCにとって、とても重要なサポートになっています」とも。これらのことも、スウェージロックが採用された大きな理由となっています。

さらに製品の安全性と作業効率を上げるため、安全講習会も行われています。大強度の陽子ビームを用いて大量の二次粒子を生成する過程では、強い放射能が発生します。そこで装置の設計には高い水準の耐放射線性が求められ、また仮に故障した場合でも容易に交換が可能な部品の採用など、施設の随所に独自の工夫が施されています。

「このJ-PARCを建設するとき、すべての配管や継手をスウェージロックのものにし、配管システムにかかわるすべてをスウェージロックに任せる、と決心しました。だから安全講習会も当然必要なものでした」田中教授はそう話します。J-PARCでは、これまで3回の安全講習会を実施。その結果、施工を管理する誰もが、継手や配管の点検、交換を容易に、そして正確に行うことができるようになりました。

「スウェージロックは必要な製品、必要な対策を、必要なときに提供してくれます。日本でここまでケアできる配管システムの企業はそう多くありません」そう話す田中教授とJ-PARCのスウェージロックに対する期待は高く、スウェージロックもまたその期待に製品とサービスで応え、信頼を獲得しています。

J-PARCをノーベル物理学賞の宝庫に

加速器はまだ最大出力に達していませんが、すでに世界中から研究者が集まり、J-PARCを活用した多くの研究テーマが採択されています。これから徐々に陽子ビームの出力を上げてJ-PARCの稼働率を高め、粛々と、確実に採択された研究テーマをこなしていく予定です。

一方で加速器の出力が上がれば、それだけ装置やそれを構成する部品に大きな負荷がかかってきます。J-PARCで採用されたスウェージロック製品の真価が問われるのは、まさにこれからなのです。

田中教授も、「高い品質をもったスウェージロックの製品は、いまや加速器の稼働に欠かせません。これからも施設の拡張や無理難題の克服に協力してもらいながら、新しい発見や研究の成果を出していきたい」と意気込んでいます。

きょうもJ-PARCでは「ひと」と「理論」が活発に動き、それを繊細で巨大なファクトリーとスウェージロックが支えています。「J-PARCを日本だけでなく、アジアや世界のための一大拠点に」と望む田中教授。その夢が実現する日は、そう遠くありません。

写真提供:J-PARC

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