インターステラテクノロジズ株式会社

「誰もが宇宙に手が届く未来をつくる」!
低価格で便利な宇宙輸送サービスを目指して

超小型人工衛星打上げロケットZERO

インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST社)は、民間ビジネスとしてのロケット開発と宇宙輸送サービスの実現を目指しているスタートアップ企業です。IST社にインタビューするのは、2017年に引き続き2度目となります。今回は、次世代機となる超小型人工衛星打上げロケット開発をはじめとする2017年以降の主な活動、同社のロケット開発におけるスウェージロック製品の役割および採用に至った背景、そしてコロナ禍における新たな取り組みについて、IST社の干場 康行氏に話を伺いました。

IST社の直近5年間の活動について教えてください。

IST社干場康行氏

2017年の初号機を皮切りに、観測ロケット「MOMO」の打上げにチャレンジし続けてきました。2019年に打ち上げた「宇宙品質にシフトMOMO 3号機」は、民間企業が単独で開発・製造したロケットが高度100 km以上の宇宙空間に到達した国内初の事例として、大きな脚光を浴びました。IST社のビジネス・モデルである「宇宙輸送サービス」を目指し、次の目標である超小型人工衛星打上げロケット「ZERO」の開発にも取り組んでいます。小型衛星などを宇宙空間まで運搬するZEROの開発は、 2019 年のMOMO 3号機の打上げ成功をきっかけに加速しました。MOMOの改良モデルとなるMOMO v1をベースとした「ねじのロケット(MOMO 7号機)」と「TENGAロケット(MOMO 6号機)」を、2021年7月の1か月間に2機連続で打上げに成功したことで、ZEROの開発にも弾みがつきました。重要な要素であるZEROのエンジンシステム技術に関する研究開発は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との共創活動として進めています1。また、エンジンへの燃料供給の要となる小型ターボポンプについては、国立大学法人室蘭工業大学とポンプ製造国内最大手の株式会社荏原製作所との共同研究開発2によって知見を広め、開発が加速しています。
またZEROの開発にあたって、2021年に福島支社を同県南相馬市に設立しました。南相馬市とも連携協定を結び、地元企業とのロケット関連部品の共同開発や、ロケットや人工衛星の開発に対する市民の理解促進に努めています3。南相馬市がある浜通り地域は、航空宇宙産業の土台が元々あることから進出しましたが、ZEROの部品開発を通じて、同産業を担う若手人材の育成を含め、同地域の復興と企業の再建にも貢献できればと考えています。北海道スペースポート今年は、ZEROの部品設計から試作品の製造、部品ごとの試験に至るまで、さまざまな取り組みが同地域内で毎月進行する予定です。
さらにZEROを打ち上げる射場が必要となります。この5年間は射場への取り組みも加速しています。IST社の本社がある北海道大樹町と協力して射場を整備しつつ、世界中の宇宙産業に取り組む民間企業や大学・研究機関などが集積する宇宙版シリコンバレー構築を目指しています。手始めとして、2021年に「北海道スペースポート(HOSPO)」を本格始動しました4。ZEROもHOSPOでの打上げを計画しています。

IST社は現在、ZEROの開発に注力されているとのことですが、MOMOの開発も継続されるのでしょうか?

2021年に2機連続で打上げ成功したMOMO v1にて開発フェーズは終了したと考えています。今後は商業ベース化に向けて、実験や研究などを目的とした観測機器や荷物をペイロードとして搭載し宇宙空間へ運搬するほか、ロケット機体を使用した企業や商品PRに利用いただく広告業といったビジネス展開にMOMOを使用していきます。

日本における民間主導のロケット開発の現状と課題について教えてください。

今の日本において民間主導でロケット開発を行っている企業は、IST社以外にスペースワン株式会社5があります。またロケットではなく、スペースシャトルのようなスペースプレーン(有翼宇宙船)を開発している民間企業としては、株式会社SPACE WALKER6やPDエアロスペース株式会社7があります。さらに日本でのロケット打上げを計画しているアメリカのヴァージン・オービット社8も、日本における民間主導の企業として考えられます。
現状の課題のひとつは資金面です。アメリカと比較するとその差は歴然です。アメリカではロケットのベンチャー企業が、商業化に向けた取り組みを毎年のように進めています。一番よく知られているのがスペースX社9です。米航空宇宙局(NASA)の仕事をはじめ、さまざまな宇宙輸送サービスを請け負い、ロケットによる人や荷物の輸送ビジネスを着々と展開しています。火星を目指す巨大宇宙船の開発も加速していると聞き及んでいます。
スペースX社以外にも、ロケット・ラボ社10がかなり優れたロケットを製造しており、NASAの仕事で得た資金で開発を進めています。その他、アストラ・スペース社11やファイアフライ・エアロスペース社12などがビジネス展開に向けてロケット開発を進めています。
その背景には、国家宇宙輸送計画や国家安全保障輸送プログラムといった米国政府によるロケット開発のサポートがあります。ベンチャー企業も含めた民間主導の宇宙輸送技術を下支えする風土が確立されており、莫大な資金が投入されています。
一方、日本では政策や計画、技術革新をサポートする取り組みが乏しい状況と言わざるを得ません。IST社も直近5年間の取り組みの中で、経済産業省の事業サポートを受けましたが、その資金レベルは、アメリカと比較して1/100程度と推測します。IST社は、民間企業からの資金調達にて事業を進めていますが、ものづくりの総合格闘技と言われ、難易度が極めて高いロケットは開発にかかる期間が長く、多額の費用がかかります。日本政府も民間主導による宇宙開発を課題に掲げ、内閣府が宇宙活動に関する法制の整備をはじめとした宇宙開発利用の推進体制を進行していますが、さらに手厚いサポートがあれば、開発スピードが速まる可能性は大いにあると考えています。
また、災害対策や環境対策をはじめ、人工衛星の用途が多様化する中、人工衛星を運搬するロケットに要するコストの削減と、打上げ頻度増加も必要性が増しています。日本では年に数回しか打上げが実施されておらず、国内の人工衛星会社も海外に宇宙輸送を依存しているのが現状です。IST社としても、このような状況を踏まえつつ「日本からも安いコストで高頻度なロケットの打上げに貢献する」ことを目指して取り組んでいくと共に、宇宙輸送を日本で実施できる体制作りの必要性を主張していきたいと思っています。

IST社でスウェージロック製品がどのように使用されているか教えてください。MOMOエンジンシステム部品

スウェージロック製品の強みは、高圧ガス・アプリケーションでの信頼性がとても高いという点です。MOMOのエンジンシステムは、3.5~4MPa程度の圧力で動いています。高圧ガスを扱うため、信頼性の高い配管が必要となります。同時に組み立てやすいものをと考えていくと、やはりスウェージロック製品しかないとの結論に至りました。ロケットは、燃料と酸化剤に点火源を加えたことによる爆発を制御して発射させます。ロケット内では、その燃料と酸化剤が隣り合わせになっています。よって、配管からガスが漏れるようなことがあれば、高価なロケット自体が爆発するという最悪の事態にもなりかねません。信頼性の高い配管を使ってロケットのエンジンシステムを組む必要があり、スウェージロック製品を使用しています。ZEROについても同様です。圧力の高い用途がいくつかありますので、そのような個所には実績もあるスウェージロック製品が欠かせません。
ロケットの機体以外に、ロケットを打ち上げる射場にもスウェージロック製品を使用しています。射場で主に行っているのは、ロケットへの推進剤の注入や、高圧の窒素ガスで不純物を取り除くパージ作業など、ロケットを確実に打ち上げるための準備です。その射場でも高圧ガスを多く取り扱っています。それらの配管も機体と同様に、漏れが発生すると打上げができないばかりか、場合によっては爆発するおそれもあります。そのようなリスクを避けるため、漏れはゼロにしなければならず、信頼性の高いスウェージロック製品を使用しています。スウェージロック製品は適切な手順で施工すれば、誰が作業しても漏れない安心感があります。

コロナ禍におけるスウェージロックの製品やサービスに対する評価を教えてください。

2021年にMOMOの2機連続打上げに成功しましたが、そのためにさまざまな準備をしてきました。ガス供給制御盤そのひとつがMOMO用射場の信頼性を向上させる改修です。その改修に、スウェージロックの配管ユニット製作サービスである「Swagelok® カスタム・ソリューションズ」を使用しました。ガス供給制御盤の製作を依頼したのですが、当時は新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言などもあり、従来のように図面を広げて議論する対面での打ち合わせができませんでした。そのため、ウェブ会議システムを使用した打ち合わせを余儀なくされました。ウェブ会議システムを使用したスウェージロックとの打ち合わせは、大変有益なものとなりました。特にやりやすかった点は、 CADの3Dモデリングによる仕様のやり取りです。3Dモデリングによる配管経路の変更や修正は、ひとつずつ確認しながら実施することができました。ガス供給制御盤CAD図スウェージロックが3Dモデリングの地盤を持ち、それをウェブ会議システムによるコミュニケーションにて即座に活用できたことが、かなり大きかったと感じています。従来の図面によるやり取りでは、紙の図面に書き込んで持ち帰り、後日修正個所を確認していました。CADを使用してその場ですべて修正し、モデルに反映するやり方は、コロナ禍で半ば強制的に実施することとなりましたが、結果的にはスピーディーに物事が進みましたし、メールで何度もやり取りしなくても、ウェブ会議の場ですぐに解決することが多くありました。その結果、かなりの短納期で計画を完了することできました。本制御盤を含む新たな設備は、設計から施工完了まで約4か月で終了しました。これは通常の1/3~1/2程度の納期だと考えています。
今回の制御盤の納入により、オペレーションが改善され、省力化が実現しました。また、バルブの開閉手順なども簡素化することができ、準備時間の短縮にも繋がっています。

今後の取り組みや目標に対する課題、チャレンジについて教えてください。

ZEROのような民間主導によるロケットの開発と打上げは、日本の民間企業ではどこもやったことがない偉業となります。大きなチャレンジですが、エンジンから、頭脳に当たるアビオニクス(電子機器)をはじめ、設計から製造、試験、打上げ運用まですべてを民間主導で実施することに大きな意義があります。 IST社のみで実施することは難しいため、これまでと同様に、さまざまな企業に協力を仰ぎながら打上げ成功を目指します。
ZEROは燃料にメタンを、酸化剤に液体酸素(LOX)を使用します。世界的に見ても、メタンとLOXを推進剤に使用するロケットはスペースX社ぐらいと、世の中的にはまだまだ少ないので、それをいちから開発しようとしているIST社は、成功すればこの業界における先頭グループに入っていけると考えています。
現時点では、2023年度中のZEROの打上げを目指しています。時間がないため、短期間ですべてを達成するには資金調達はもちろんのこと、人材の獲得が重要です。5年前に20名だったメンバー数は約90名にまで増えましたが、まだまだ人手が足りず、積極的な求人活動を展開しています。スピード感を持って開発してZEROをいち早くサービス・インするため、人材の確保が最重要課題となっています。

最後に、今後スウェージロックに期待することはお聞かせください。

スピーディーな対応に期待しています。今でもスピード感を持って、かなり柔軟に対応いただいていますが、さらに強化していただくことを望んでいます。スピーディーな納品や対応は、 ZEROの打上げ達成を含む民間主導によるロケット開発にとって、IST社が展開する協力会社との関係強化や人材確保と同様、大変重要な要素と捉えています。


1. IST 社 News: https://www.istellartech.com/archives/4991
2. IST 社 News: https://www.istellartech.com/archives/5339
3. IST 社 News: https://www.istellartech.com/archives/5059
4. IST 社 News: https://www.istellartech.com/archives/5133
5. スペースワン株式会社 : https://www.space-one.co.jp/
6. 株式会社 SPACE WALKER: https://www.space-walker.co.jp/
7. PD エアロスペース株式会社 : https://pdas.co.jp/
8. ヴァージン・オービット社 : https://virginorbit.com/
9. スペース X 社 : https://www.spacex.com/
10. ロケット・ラボ社 : https://www.rocketlabusa.com/
11. アストラ・スペース社 : https://astra.com/
12. ファイアフライ・エアロスペース社 : http://www.fireflyspace.com